前書き
アパレルブランドを立ち上げようとお考えの皆様へ、手順や内容と共に、ワンオペで12年ブランド経営をしてきた私の「実体験」を交えてお話しします。資金調達の方法、立ち上げ初期に直面した罠、経験不足から多くの失敗を乗り越えたからこそ伝えられる深い話をさせていただきます。
自己紹介
私は岡山県倉敷市児島で、競馬用の調教用ジーンズブランド「ONZOJEANS」を12年間ワンオペで経営しています。
今ではようやく武豊騎手など有名騎手が履いてくださったり、サントリーBOSSジャンとコラボできたり形になってきました。
企画、デザイン、製造、販売、営業、広告宣伝、経理など、すべての業務を一人で担当しています。
大阪モードを卒業後
岡山児島でジーンズのOEM会社で営業として勤め、ブランド側の仕事や工場側の仕事の両方を見て怒られて、学んできました。その人脈を活かし、製造背景を整え、ブランド側の仕事を理解し独立。自分の好きな「競馬」と「ジーンズ」を組み合わせたニッチなブランドを立ち上げました。
ニッチなマーケット(ブルーオーシャン)には大きなメリットと大きなデメリットが存在する可能性もありますので、最後まで読んでいただけると幸いです。
アパレルブランドの立ち上げに向けての準備
1. ブランドコンセプト「ぶれない軸を決める」
ブランドを一言で表現する言葉を30文字程度でまとめます。デザインや方向性に迷ったとき、この言葉に立ち戻り、自分が何をしたかったのか、どんなものを作るために立ち上げたのかを再確認するための言葉です。
実体験: 私のブランドの軸は「From based(フロム ベースド)」。
fanction 機能性
range of motion 可動域
base 原点
durabillity 耐久性
機能性、可動域、耐久性を重視し、ターゲットが集中する重要な姿勢時に負荷の少ない原点を探る服作りです。その後、宣伝で使うキャッチコピー(15文字以内)や、SEO対策となるキーワードを設定することもブランディングしやすくなります。
※また、ブランドコンセプト以外に、ジャンルごとでコンセプトがあるといいでしょう。
ONZOJEANSの「デニムライン」のコンセプトは「Jeans but sporty(ジーンズなのにスポーティ)」
商品一つ一つにもキャッチフレーズが必要になります。パンフレットやポスター、SNSでもよく使うので準備しておくといいでしょう。
2. ターゲットの絞り方:5W
Who(誰)
ターゲットとなる顧客層を具体的に絞り込みます。年齢、性別、職業、趣味、ライフスタイルなどを考慮します。
What(何を)
ターゲットが求めている製品やサービスを明確にします。彼らのニーズや望みを理解することに繋がります。
When(いつ)
ターゲットが製品を購入する着てもらえるタイミングやシチュエーションを把握します。季節、特定のイベント、日常生活のどの瞬間かを考えます。
Where(どこで)
ターゲットがどこで製品を見つけ、購入するかを考えます。オンラインショップ、実店舗、イベントなどの販売チャネルを考慮します。またどこに着ていくのかという側面も必要です。
Why(なぜ)
ターゲットがなぜその製品を購入するのか、どんな価値を見出すのかを理解します。製品の魅力や差別化ポイントを強調するために重要です。
5Wを理解することでターゲットを絞り込めたら、次にペルソナの設定を行います。
3. ペルソナの設定(究極のターゲット)
ペルソナ設定は、ブランドの象徴的な顧客像を具体化し、5Wで絞り込んだターゲットにアプローチするための重要なステップです。ペルソナには、「ブランディングペルソナ」と「販売用ペルソナ」の2種類があります。
ブランディングペルソナ
ブランドの最も理想的な顧客像です。実在する人物でも架空の人物でも構いませんが、少数に絞ることが重要です。最高のアンバサダー、ブランドの象徴として商品を着てもらいたい人物を設定します。
販売用ペルソナ
ブランディングペルソナと共通項を持つ調査や机上の空論だけでは見えてこない潜在顧客層です。できるだけ大きなゾーンで設定し、購入の可能性が高い層をターゲットにします。検索エンジンでどんな検索をしそうかを考えます。
例: 私のブランドのペルソナ設定
ブランディングペルソナ
- 30代前後のトレセンの調教リーダー的存在
- リーディングジョッキー(最優秀騎手)
販売用ペルソナ
キーワード: 競馬、調教、育成、牧場、騎手
ターゲット: 競馬愛好者、馬乗り、バイクや自転車愛好者、BMX、ダンス、スケボーなど
ペルソナを設定したら、次にそのペルソナがどのような行動パターンを持ち、どの瞬間に製品が役立つかを考えます。これはターゲットのニーズを理解するための重要なプロセスです。
販売形式
1. ネット販売
メリット
- 低コスト: 初期投資が少なく、店舗の家賃や内装費用が不要
- 広範囲な顧客層: 地理的な制約がなく、全国、さらには国際的にも販売可能
- 24時間営業: 顧客はいつでも購入可能
- データ分析: ウェブサイトのアクセスデータや購買データを活用し、顧客のニーズを把握しやすい
デメリット
- 競争激化: 同様のオンラインショップが多く存在
- 実物確認の難しさ: 顧客は実際の商品を手に取って確認できないため、返品や交換が増える可能性
- 配送コストと時間: 配送費用や時間がかかり、購入の障壁になることも
2. 実店舗
メリット
- 直接の顧客体験: 顧客は実際に商品を手に取り、試着可能
- ブランドの信頼性: 実店舗を持つことでブランドの信頼性が向上
- 顧客との直接対話: スタッフとの対話を通じて顧客のフィードバックを直接受け取ることが可能
デメリット
- 高コスト: 店舗の家賃や内装、スタッフの人件費など、運営コストが高い
- 地理的制約: 店舗の立地により、顧客層が限定される
- 営業時間の制約: 営業時間が決まっているため、24時間対応が難しい
3. 代理店・商社
メリット
- 広範な販売ネットワーク: 代理店や商社のネットワークを利用し、広範囲に商品を展開可能
- プロの営業力: 代理店や商社の経験豊富な営業力を活用
- リスク分散: 自社だけでなく、パートナーとリスクを分散
デメリット
- 利益の分配: 代理店や商社に利益の一部を分配する必要
- ブランドコントロールの難しさ: 自社で直接販売する場合に比べ、ブランドイメージのコントロールが難しい
- 依存度の高さ: 代理店や商社に依存する度合いが高くなる可能性
4. POPUP店舗、自社展示会やクラウドファンディング
メリット
- 柔軟な販売方法: 期間限定のイベントやクラウドファンディングを活用し、新たな顧客層にアプローチ可能
- 低コストでの市場テスト: 短期間で市場の反応をテストし、リスクが少ない
- 話題性とPR効果: 特別なイベントとして注目を集めやすく、PR効果が高い
- ファンとの密な交流ができる
デメリット
- 一過性の売上: イベント終了後に売上が一時的に減少する可能性
- 継続的な販売が難しい: 期間限定であるため、継続的な販売には向いていない
- 準備と運営の負担: イベントやクラウドファンディングの準備や運営には時間と労力がかかる
各販売形式のメリットとデメリットを考慮し、自社のブランドや商品に最も適した方法を選びます。例えば、ネット販売とPOPUP店舗を組み合わせることで、低コストで広範な顧客層にアプローチしつつ、実際の顧客体験も提供できるようになります。
実体験を付け加えさせていただくと、実店舗は立ち上げ当初にしては初期投資と維持費がかなり掛かります。補填できる目途のない場合は売り上げが安定してからがお勧めです。とはいえ実店舗は、販売以外に、体験型スぺースとして、コミュニケーションツールとして、展示会やイベント会場として多くの用途があるので非常に使い勝手がいいことは間違いありません。出店場所と予算を十分な計画が必要です。
ネットショップは、ShopifyやBASE、カラーミーショップなど安くて(年間~5万円以下)自分でも簡単に作れるネットショップ もあります。こちらは自由度が高いことも大きなメリットですが、集客をするには時間がかかります。ネットの中の検索しても上位に来ない森の中で出展したイメージで、少しずつ口コミや宣伝広告で有名店に育てるイメージです。
楽天市場やAmazonなどに出店すると大型モールに出店しているイメージでそこら中に顧客があふれています。ただ出展料が高い。ライバル商品が多い。価格競争になりやすい。など大型モールの中の落ちこぼれになるリスクがあります。維持費が高いところが注意点です。
代理店・商社への販売は、うまくいけば代理店や商社が大量発注してくれる可能性もあります。
もちろん基本はそんなにうまくいく物ではありません。
例えば東京ビックサイトの展示会などへ出店して契約を勝ち取ることができれば少なからず商品を買ってもらえます。
しかしいきなり「千単位の在庫が常にありますか?」「発注したら2か月以内で発送できますか?」などハードルが高い可能性もある。
在庫リスクも必要なケースもある。この話は、知り合いの会社の話だが、お土産用の雑貨を販売している会社で年に数回展示会に参加するだけで数千万の売上を上げている会社を知っている。
もちろんすぐに成果が出るわけではないので地道な努力が必要ですし、商社や代理店も売る為だけに契約するわけではありません。パンフレットや客引きアイテムとして、引き付けて実際は一番売りたい「金のなる木(利益率も良く顧客の需要も高い商品)」を売りたいわけです。
自社商品が脇役アイテムにならないために年間の最低仕入れ価格などを相談するのも重要です。
そうしないと商社や代理店と契約により自社の実店舗やサイトでも販売する場合は、自社のセールする時は商社や代理店にお伺いを立てる必要もでてきて自由さがなくなります。たとえ年間10万円も買ってくれていない取引先でも契約書の内容が重視されます。
私の経験では、大量の在庫を売りさばきたいからセールで50%OFFにすると「安く売りすぎ、こっちがうれなくなるだろう」と代理店から怒られ、でも在庫をすべて買い取ってくれるわけでもない。大量に余った在庫をただ茫然と眺めるだけ…といった自分の首を絞めることになりました。
これは私の経験不足と無知だったことが原因で代理店の方々にご迷惑をおかけした事例です。
まずは、コンパクトなスタートをして窓口を小さくし、少しずつ広げることと、相談できる人がいれば細かく情報をもらうとよいでしょう。
資金調達方法
アパレルブランドを立ち上げるためには資金が必要です。ここでは、資金調達の方法について詳しく説明します。
1. 自己資金
メリット
- 完全なコントロール: 自己資金を使用することで、ビジネスに対する完全なコントロールが可能。
- 返済義務なし: 貸付金ではないため、返済義務がない。
デメリット
- 資金の限界: 自己資金だけでは、必要な全ての資金を賄えない場合がある。
- リスク: 自己資金を失うリスクが高い。
実体験:
私の場合、最初の資金は貯金を使いました。自分のブランドに対する信頼と責任を感じる一方で、資金が尽きるリスクも高かったです。
2. 銀行融資
メリット
- 大口の資金調達: 大きな資金を調達できる可能性がある。
- 定期的な返済計画: 返済計画が明確で、予測しやすい。
デメリット
- 審査が厳しい: ビジネスプランや信用情報が厳しく審査される。
- 返済義務: 利子を含む返済義務がある。
3. クラウドファンディング
メリット
- 広範な支援者: インターネットを通じて、多くの支援者から資金を集めることができる。
- PR効果: ブランドの認知度を上げる効果がある。
- キャッシュフローが良く、プロジェクト成功後、翌月に入金されるので製造も助かります。
- プロジェクトが失敗したときは、返金してキャンセルできるので大きな支出にならない。実店舗を借りてスタッフを雇って展示会すると大きなお金がかかりますが、オンライン上でできるので失敗してもリスクは最小限で抑えられます。
- 大手はリサーチとして活用しています。この商品が売れるかどうかクラファンで成功したら商品化しようという企業も多々あります。
デメリット
- 成功の保証なし: クラウドファンディングが成功する保証はない。
- コスト: リワードの提供やプラットフォームの手数料がかかる。
実体験:
私はクラウドファンディングを通じて新商品の資金を調達しました。結果として、資金だけでなく、ブランドの認知度も上がり、新たな顧客層にアプローチすることができました。
4. 投資家・エンジェル投資
メリット
- 大規模な資金調達: 投資家から大規模な資金を調達できる可能性がある。
- 経営支援: 投資家からのアドバイスや支援を受けることができる。
デメリット
- 株式の譲渡: 投資家に株式を譲渡するため、経営のコントロールが部分的に失われる可能性がある。
- リターンの要求: 投資家はリターンを求めるため、利益を上げるプレッシャーが高まる。
①まずは政策金融公庫へ相談
創業当初は政策金融公庫から必要経費を借りることをお勧めいたします。
創業時は審査もないし事業計画書(未来予想図)を書くと無茶を言わなければ満額貸してもらえます。
また3年後、5年後の売上予想なども書きますが、正直「そんなもんわかるか‼」となりますが、
誰にもわからないので適当に右肩上がりで書いておけば大丈夫です。
まずはブランドの青写真を言葉にしていくらかかるかを細かく計算して100万~1000万を借りることもできるので
※またしっかり返済をして行くと向こうからまた「借り換えできますよ(追加で借入)」と依頼が来ます。
銀行や政策金融公庫からの借り入れは「借金」というとらえ方よりその金額を貸してもらえるだけ「信用されている」
という誇らしいことでもあります。
②銀行は「雨の日には傘を貸してくれない」
銀行さんは、調子がよく借りる必要のない時に「借りてください」。
逆にお金に困っているときは「う~ん。精査させてください」と渋ったり
満額ではなく減額することは多々あります。これは仕方のない話です。
とはいえ急遽お金が必要となった時には銀行や政策金融公庫へ相談に行く必要があります。
銀行が貸してくれる時は発注書(注文)がすでにある場合や
「今後の発展や期待が持てる面白いプロジェクト」「自治体との協働」「著名人が使用」といった
「ブランドが成長する信憑性」「信用」に対して未来の投資をしてくれるわけです。
製造背景の整え方
1. 製造パートナーの選定
信頼できる製造パートナーを見つけることが重要です。工場の見学やサンプルの確認を行い、品質や納期に対する信頼性を確認します。
2. コスト管理
製造コストを適切に管理するために、製品の仕様や材料費を詳細に把握します。また、大量生産することでコストを抑える方法も検討します。OEM会社や工場と継続的に仕事をすることで信頼が生まれ少しずつコストの話もできるようになります。
工場サイドの思っていることは、「あなたのブランドは年間どのくらい仕事をくれるか?」です。1回の仕事で安くしてくださいは、かなり無謀で失礼な相談です。「3年連続で500万円仕事を依頼してます。これからも依頼するので、少しだけコスト下げりませんか?」実際にはもって細かい工場側の意見はありますが、簡単な説明をしました。
3. 品質管理
品質管理はブランドの信頼性を保つために重要です。製品の品質チェックを徹底し、問題が発生した場合には迅速に対応します。
実体験をでお話をすると私はOEM会社(製造委託会社)で働いていました。多くのブランドから仕様書をもらい、資材の発注から製造、出荷まですべてを管理する会社です。製造のプロなのでネットワークがない場合は最初はOEM会社に頼むといいでしょう。最初の取引なら原価の30%程度上乗せにはなりますが、いい商品がすぐに販売できるクォリティーででき上がってきます。
販売促進とマーケティング
1. デジタルマーケティング
SEO(検索エンジン最適化)
ブランドのウェブサイトやオンラインショップのSEO対策を行い、検索エンジンでの表示順位を上げます。
SNSマーケティング
SNSを活用してブランドの認知度を上げ、ターゲット層にアプローチします。インスタグラムやフェイスブックなど、適切なプラットフォームを選びます。
2. オフラインマーケティング
イベント・展示会
ファッションショーや展示会に参加し、ブランドの知名度を上げます。
POPUPストア
期間限定のPOPUPストアを開設し、実際の商品を顧客に体験してもらいます。
開業の準備
ネットの準備
ネット販売の準備としてはオンラインショップの構築し、商品写真や説明を充実させます。
決済システムの導入: 信頼性の高い決済システムを導入し、顧客が安心して購入できる環境を整えます。
マーケティング戦略の策定: SEO対策やSNSを活用したプロモーションを計画します。
実店舗の準備
立地選定: ターゲット顧客にアクセスしやすい立地を選びます。
店舗デザイン: ブランドイメージに合った内装やディスプレイを考えます。
スタッフの採用とトレーニング: 顧客対応に優れたスタッフを採用し、トレーニングを行います。
開業届
開業届の提出: 開業届は事業を開始する前に税務署に提出する必要があります。これにより、事業者として正式に登録され、税務申告などが行えるようになります。
必要書類の準備: 開業届には事業の概要や事業主の情報を記載するため、必要な書類を準備します。
提出方法の確認: 開業届は税務署に直接持参するか、郵送で提出します。最近ではオンラインでの提出も可能な場合があります。
結論
アパレルブランドの立ち上げは多くの挑戦とリスクを伴いますが、しっかりとした計画と実行力があれば成功を収めることができます。私の経験を基にしたアドバイスが、皆様のブランド立ち上げの一助となれば幸いです。成功を祈っています。
今回はここまでとします。
今回は立ち上げの前後に必要な内容をお話してきました。
次回は「アパレルブランドの成功への道」と題して私の失敗談や体験談を元に実務的な経営の内容やお話しさせて頂きます。