前書き
アパレルブランドを立ち上げようとお考えの皆様へ、手順や内容と共に、ワンオペで12年ブランド経営をしてきた私の「実体験」を交えてお話しします。資金調達の方法、立ち上げ初期に直面した罠、経験不足から多くの失敗を乗り越えたからこそ伝えられる深い話をさせていただきます。
自己紹介
私は岡山県倉敷市児島で、競馬用の調教用ジーンズブランド「ONZOJEANS」を12年間ワンオペで経営しています。
今ではようやく武豊騎手など有名騎手が履いてくださったり、サントリーBOSSジャンとコラボできたり形になってきました。
企画、デザイン、製造、販売、営業、広告宣伝、経理など、すべての業務を一人で担当しています。
大阪モードを卒業後
岡山児島でジーンズのOEM会社で営業として勤め、ブランド側の仕事や工場側の仕事の両方を見て怒られて、学んできました。その人脈を活かし、製造背景を整え、ブランド側の仕事を理解し独立。自分の好きな「競馬」と「ジーンズ」を組み合わせたニッチなブランドを立ち上げました。
ニッチなマーケット(ブルーオーシャン)には大きなメリットと大きなデメリットが存在する可能性もありますので、最後まで読んでいただけると幸いです。
顧客を獲得できるか?
どうやってファンを付けるか
- SNS: 無料もしくは低コストでファンを獲得できる手段。ただし、「継続」が必要でこの「継続」することが難しい。ネタ切れや忙しいことで少しUPできない時期があったり、「いいね」や「フォロワー」が伸びないなど少し疲れてしまったりと思っている以上にできないものです。
- 広告: 適切な場所で広告を使用することで、ブランドの認知度を上げることができます。
- ネットワーク: ブランドを立ち上げた際に実店舗でパーティーを開くことが効果的です。招待した人々がどれだけ来てくれるかが重要で、このネットワークを広げていくことが絶対条件です。相談に乗ってくれる同業者、展示会で必ず買ってくれる常連さん、SNSで知り合ったアンバサダーなど、深くブランドを考えてくれる身内のようなネットワークは必ず助けてくれます。大切にしましょう。
近寄ってくる魔の手ではなく、自分から売り込むべき
これは実体験から話します。ブランドを立ち上げ、数か月全く売れていない時に何とか告知をして知ってもらわないとと焦っていました。政策金融公庫で300万円を借りたは残り200万円でせめて100万円は残しておこうと思っていましたが、そんなある時電話がかかってきました。
「あなたの競馬用のジーンズに興味があります。九州の新聞広告に出してみませんか?」
「テレビショッピングであの乗馬もしている俳優がゲストの際に商品を出しませんか?」
当時、売り上げが3ヶ月0円で、深夜のアルバイトをしながら経営していたため、藁をもつかむ思いで、この二つの案件を受けることにしました。有名な俳優、あなたのブランドはピッタリで在庫はどのくらいありますか?もし在庫がなくなったらどう伝えますか?などすごいことになる予感しかしない話しぶりでした。新聞広告10万円、テレビショッピング50万円の広告費をかけました。しかし、実際にきた注文は0でした。
その後、地方の新聞社の方と知り合い、新聞広告やテレビショッピングなんて有料なら絶対にするな、本当にお願いがある場合は電話の後会いに来るし、テレビの取材などは無料。新聞の記事も無料で、広告(宣伝)と記事(取材による有益情報)の違いから教えていただきました。
実際、テレビ東京で競馬用品としてドキュメンタリー番組に出たときは、むしろグッズなどをいただきました。地元テレビで競馬用ジーンズとしてニュースのトピックスで取り上げてもらった時ももちろんタダで、どちらも反響はとんでもないものでした。
私が無知なだけでしたが、おいしそうな話には裏があるかもしれないと疑いながら、十分注意してください。
売り込むなら地元テレビ局や新聞社に取材をしてほしいとプレスリリースや新商品のニュースリリースを流すことです。もしくはメディア関連の知り合いを作ることをお勧めいたします。そこで自分とブランドを売り込んでください。効果抜群です。
ライバルブランドの真似と差別化
ライバルの収集と成功の秘訣を分析
- ライバルは同のように利益が出ているのか:
- どこで売っている?実店舗、展示会、ポップアップ店、ネットショップ?
- 顧客は何を求めているのか:
- ベネフィット: お客様が商品を手に入れて感じるメリット。例えば、ヴィトンの財布を買うことは「新しい財布が欲しい」だけでなく、「ハイブランドだし自慢できる」という承認欲求を満たすことや自己肯定感の向上が「ベネフィット」です。
私の場合、競馬業界では一般的なジーンズを使用していましたが、プロに特化したジーンズを作るために、馬に乗った時に負荷の少ない形にして、伸び素材で締め付けず、その他の作業も行いやすいジーンズを作りました。結果として、ストレスフリーな作業ができ、「仕事に集中できる」「パフォーマンスが上がる」「疲れが少ない」などのベネフィットが得られました。その後、武豊騎手や多くのジョッキーも使用してくださり、権威性(影響力)が増し、ベネフィットに信用性が増していきました。業界ではあのレジェンドが履いているということは間違いなくいい商品なんだろう。と思わせる力を権威性と言います。
- 潜在的なベネフィット:
- ブランド立ち上げ当初は、若手騎手やスタッフの方から情報やアドバイスを頂きデザインに落とし込みましたが、「どんなジーンズなら買う?」と唐突に質問しても答えられる人は少ないです。お客様との距離を縮めながら、たわいのない話の中でヒントを拾っていくことが重要です。例えば、「ジーンズは夏にベタつく」という声から、「べたつかないパンツ」ということでポリエステル混率の高い冷感素材のパンツを作り、「夏でもべたつかず快適なパンツ」として解決することができました。
これは「ということは」を繰り返しベネフィットを次々と導き出す方法がお勧めです。
商品の特徴「伸び素材で耐久性もあり動きやすい」☞ということは「馬に乗るのに適している」☞ということは「疲れにくくハイパフォーマンス」ということは…といった具合にベネフィットを生み出すことができます。キャッチフレーズに使ったりコンセプトに使ったりできるのでお勧めです。
- ブランド立ち上げ当初は、若手騎手やスタッフの方から情報やアドバイスを頂きデザインに落とし込みましたが、「どんなジーンズなら買う?」と唐突に質問しても答えられる人は少ないです。お客様との距離を縮めながら、たわいのない話の中でヒントを拾っていくことが重要です。例えば、「ジーンズは夏にベタつく」という声から、「べたつかないパンツ」ということでポリエステル混率の高い冷感素材のパンツを作り、「夏でもべたつかず快適なパンツ」として解決することができました。
全く一緒でない独自性・自社ブランドの強み
- SWOT分析:
- 自分たちのブランドにはライバルがいるはずですが、まったく同じ立ち位置では衝突するだけで体力勝負になります。効率よくブランディングするために、ブランドコンセプトやターゲットを絞ります。それ以外にもSWOT分析を使って自分の立ち位置を俯瞰で見ることが重要です。自分たちの強み、長所や得意分野と弱み、短所や苦手分野、外部要因による機会・チャンス、脅威・ピンチを分析して、どこで戦うのかを洗い出す手法です。
強み・得意(内部的伸ばすところ): 製造のネットワーク 小回りの利く自社製造 ニッチな市場で独占市場(競馬ジーンズ) | 弱み・苦手(内部的補う所もしくは避ける): 資金面が弱い 大量生産は無理 |
機会・チャンス(外部的チャンス・経済など) 円安・インバウンドの復調により国産ジーンズが外国人に好調と輸出が有利 競馬業界は、好景気 | 脅威・ピンチ(外部的ピンチ・経済など): 円安で輸入品が高騰 物価高で資材が高騰 実質賃金が28か月下落で購買意欲の低下・嗜好品が売れない。(スタグフレーション) |
上のSWOT分析から
強みと機械の掛け合わせは攻めポイント。
逆に弱みと脅威は一時撤退、もしくは撤退ポイント
①強みの「小回りが利く自社製造」+機会「インバウンド好調」=「外国人向けのジーンズを京都で販売」
②強みの「ニッチな競馬ジーンズ」+機会「円安で輸出がプラス」=「競馬ジーンズの海外進出の検討」③弱みの「資金面」+「脅威の輸入品高騰」+スタグフレーション(物が売れない)=海外製品仕入れは一時停止と代替えの検討
などのライバルや現状、情勢を分析して、何に投資して、どの分野を撤退、一時停止するかの検討・実施
タイムリー事例だと2024年8月に「借入金利の上昇」により借入しにくい状態になっています。実店舗の出店計画を遅らせたり、物価高と実質賃金が28か月下落というニュースから購買意欲の低下予想するなら、安価な商品を展開するか、撤退するか、副業のスキルを今のうちにつけておくか…など分析と危機管理にもつながります。
「自社の強み弱み(得意不得意)」だけでなく、自社が頑張ってもどうしようもない増税や法の改正、金利の上昇、為替、戦争による資材高騰などの「外的要因(機会と脅威)」を分析することで、ただ黙々と作って在庫を増やすのではなく、細かいクイックな対応が小さな企業にしかできないメリットです。
頑固一徹ではなく柔軟で流行に敏感で危機管理をしていくことをお勧めいたします。
ブランドとは刻印つまり差別化:
- ブランドの語源は、牛のお尻にナンバーリングする焼き印のことです。つまりブランドをするということは唯一無二のオンリーワンであることが必要です。値段、使用素材、小柄な大人を狙う、大きなサイズをターゲットにするなど、ライバルブランドといかに差別化をしてマーケットでの前面衝突を避けることも大事なことです。
ライバル会社と似ているようで全く違う唯一無二の独自性を作り上げましょう。
誰を満足させているか?
誰の、どのタイミングの、何を満足させたいか?
- ペルソナの探求:
- ペブランディングペルソナとはあなたのブランドの「最高で象徴的なアンバサダー」ですが、これを設定することで企画やデザインのイメージを想像しやすくなります。例えば、伝説の騎手で時計が趣味、フォーマルウェアが多い、黒髪でひげはきれいに処理、車好き、影響力がある(これは武豊騎手の場合)などのイメージから、どのような商品を作るかを考えることができます。
- そのペルソナは、どのタイミングでそれを着るのか:
- 例えば、騎手も交えた競馬トレーニングでは、上着はジャージでもジーンズを履くことがあります。取材で撮影されることもあるため、身だしなみを整えた状態で馬に乗る場面で調教用の競馬ジーンズは履かれます。パジャマがアイテムなのとウェディングドレスがアイテムというシチュエーションを理解することは非常に重要です。
アパレルブランドのメリットとデメリット
メリット
- 自由なブランディングができる。
- 参入障壁が低い:
- 免許などがいらない。逆に言えばライバルがいつでも参入してくる脅威。
デメリット
- 在庫リスク:
- 量産にはミニマムロットが必要。少数だと原価高騰。
- 集客や認知の時間:
- 良いものが売れるわけではない。知られたものが売れる。認知には思った以上に時間がかかる。
- ファッションは水商売:
- あくまで嗜好品。時代に流されるのがファッション。ちょっとしたことでまずは服から節約される。現在はファストファッションとハイブランドの二極化。中途半端な値段が一番大変。やるなら付加価値を売りにした高いゾーンで勝負しよう。ファストファッションは大手に絶対にかなわない。
特に重要な点
自分自身のブランディング
あなたの周りには何人の見方がいますか?「助けて、まったく売れない」と嘆いた時、「展示会に来て」とお願いした時に、何人が立ち寄ってくれますか?そのあなたを本当に支えてくれる味方が多ければ多いほど、あなたは成功に近づきます。
ブランド立ち上げ当初、私は良いものを作れば生き残れると思っていました。しかし、商品は「権威」によって売れることも多いのです。インフルエンサーや著名人が宣伝することです。
まずは自分自身をブランディングして
「あなたが作った物なら全部ほしい。」というようなファンを作る。
「君の為なら一肌脱ぐよ」という仲間を集める。
あなたの周りに自然に人が集まるような自分のブランディングをぜひ心がけてください。
スティーブンジョブズ氏の名言を借りると
「いくら素晴らしいものをつくっても、伝えなければ、ないのと同じ。」
「良いものを著名人が説得力のある言い方で、1000万再生されるYouTubeを使って宣伝したら」絶対に反響すごいです。
伝える。伝わるには無名ではいつまで経っても多くの人には届きません。
手っ取り早いのは自分がインフルエンサーになって味方をファンを取り込むことです。
迷ったら原点復帰(ブランドコンセプトを見つめなおす)
有名な哲学者アントニ・ガウディの言葉に、「オリジナリティ(個性)とはオリジン(原点)に帰ることである」があります。迷った時には、自分の人生を振り返り、自分を見つめなおすことが大切です。例えば、私がなぜジーンズを始めたのか、なぜ仕事を辞めてファッション専門学校に行ったのか、なぜ大学を中退したのか、なぜ高校で野球をしていたのかを考えることで、自分の原点を見つけることができます。
自分は次男で負けず嫌いだけど自己肯定感が低かったため常に判断が遅かった。大人になってやっぱりファッションがしたいと決意した経験から自分の直感を信じてきた…それに「やらなかった後悔」はずっと尾を引く。
今回の判断はもう少し情報を集めて最終判断は自分の正直な気持ちを信じよう
今までの経験上、あの時もあの時もいい話に騙されやすい自分を見てきた。今回はしっかり話を聞いて少しでもお金がかかるのなら断ろう‼
会社の経営や重要な選択を迫られた時、自分らしい決断をするために原点に立ち返ることをお勧めします。もし間違った選択をしても、自分らしい決断には後悔がありません。
在庫は罪庫
ブランドにとって在庫は常につきものですが、在庫を持つことはブランドの不健康状態を示します。
超王手企業の創業者でその企業の大株主の方にお話をする機会があり根掘り葉掘り聞きました。その中で特に強烈に言われて勉強になったことを話します。
ブランディングやブランド価値を下げないのも重要だが、在庫を1年も大事に持っているということがブランドの不健康状態だ。仕入れて商品をどれだけのペースで回転(作って売って作って売ってを繰り返すこと)させるか?この商品の回転率を上げないと血流と一緒で回転数がゆっくりだと人なら青ざめて死ぬよ。 一年経っても売れ残る商品は四の五の言わずに現金化しないと!きれいごとを言っているだけですでに商売として破綻しているよ。
頭が真っ白になりましたが、ごもっともすぎる言葉でその言葉に今でも感謝しています。まずは在庫を長期的に残すこと自体が罪であることを意識して現金回収を心がけましょう。
今ならこそっと「メルカリ」でも「訳アリアウトレットセール」でも在庫をなくす方が健全でしょう。
成功は十分の一
経営者は皆さんほぼ同じようにこの言葉を口にします。
チャレンジやビジネスの話が舞い込んできた時、成功確率は十分の一です。大抵失敗する。10や20のチャレンジではなく、致命傷にならない程度の投資をしっかり吟味して多くのトライをする方が良いです。私も東京オリンピック2020の例に挙げると、製造スタートしてすぐに延期。特設会場の注文もキャンセル。でも来年こそはと思ったら無観客。もちろん在庫は山のように残り数100万の赤字になりました。絶対に大丈夫そうな話でも「絶対はありません」。それでもチャレンジを続けることで成功することが成功の秘訣です。大きな期待をせず、チャレンジを継続してください。
ニッチなマーケットは棚ぼたが多い。超差別化の特権
競馬用の調教用ジーンズはニッチな市場(超差別化)で、ライバルが少ないという大きなメリットと需要も小さいという大きなデメリットがあります。一般的で手に入りやすいジーンズや作業着で作業する競馬業界はユニクロやワークマンがライバルということが脅威ですが、ニッチな商品を作るブランドとしてテレビや新聞の取材を受けることができます。「こんな変わったものを作っている企業もあります」というネタは、ライターや記者にとって魅力的です。
実際に社員も実店舗も持たないわがブランドですがテレビ東京さんのドキュメンタリー番組や地元のニューストピックスの取材、新聞雑誌の取材など多く受けています。最近ではサントリーのBOSSジャンとのコラボまでしております。ニッチにはコアなファンがいるので棚ぼたがたまにあります。
副業(サブスキル)の確保
ブランド立ち上げ当初、深夜のスーパーでアルバイトをしながらブランドの仕事をしていました。その経験から、早い段階で副業をしておくことが重要だと感じています。クラウドソーシングで仕事をしたり、隙間時間で収入を得ることが可能です。アパレル業界は水商売であり、いつ潮の流れが変わるかわかりません。動画編集やライター、プログラミングなどのスキルを身につけて、副業と両立できる環境をお勧めします。
クラウドソーシングやブログなどサブ収入も助けになるでしょう。
先ほどのSWOT分析でも話した外的要因の脅威(経済や情勢のピンチ)で説明するといつ新型コロナや震災といった予想不能な回避できない脅威がいつ襲ってくるかわかりません。
またその脅威はアパレルブランドがダメージを受けるかもわかりませんが、服が全く売れない事態に繋がることもあるかもしれません。
いかなる事態でも自己防衛として本業のアパレルをサポートができ、またピンチでは切り離して売り上げが見込めるスキルを持つことは重要だと感じます。
最後に
以上、長々とお話をさせていただきましたが、自分も自社ブランドを夢見て現在も奮闘しているブランド経営者として書かせていただきました。少しでも参考になれば幸いです。質問や相談などありましたら、お気軽にお問い合わせください。
現在でもブランドのジーンズやカジュアル商品の「新OEM」を受けております。新OEMでは、支払いが発生した際にその金額をお客さんに支払ってもらい、仕様書に対して工場へ情報を伝えます。営業代行をしながら、生地の一時保管や問題が起こった際の対応も行います。代わりに商品の15%をいただく形で、安く抑えたい方にはお勧めです。